木原祐輔氏 (キハラ株式会社会長)  受賞のことば

木原祐輔氏 キハラ株式会社の会長を致しております木原でございます。

 今日は、私が日頃お教えていただいている錚々たる先生方の前で、このように晴れがましく表彰をして頂きまして本当にありがとうございます。  なんと申し上げたらよいのか、表彰状をもらうのは小学校の運動会ぐらいしか経験がないものですから、どういう気持ちで頂いたらよいのかと思いました。受賞のことを社内で話しましたら、やはり日頃営業とは別にこの事業に関心を持って個々の図書館を尋ね歩いてくれる営業マンが大変励みに感じて喜んでおり、感謝いたしております。さらに、やはり先程代表幹事さまがおっしゃられたように、この事業がまだまだ図書館界に浸透しておりませんので、「そういうことをやっている人がいるよ」ということがわかっていただければ、大変ありがたいという気持ちでございます。そういう意味でも本当にありがとうございます。

 実はもう20年以上前に図書館のほとんどがIT化されていく時代に、「少しやっておいたらいいんじゃないか?」という事を何人かの方からサジェッションいただいたのですが、「いや〜、それはうちのやることじゃないよ」と「もっと大手にやってもらわないと、とてもじゃないけど続かないです」という気持ちでおりました。それで断念しておりました。いよいよバブルとか色々経験してきて、新しい図書館が出来てきますと、古い物は無くなっていく一方です。その無くなっていくのを見ていまして、時を失しましたけれども、「何とかしなければいけない」という気持ちになりました。確か2004年の図書館大会の時に強引にJLAの松岡事務局長さまと竹内セ先生に「こういうものを用意いたしましたから、どうか決裁してください。」ということをお願いしまして、始めたのがこの事業でございます。

 最初は、図書館協会にご迷惑をおかけしてはいけませんので、図書館協会の名前をお借りしてやりますけれども、

というお約束で、はじめました。

 ですから、私どもで貰っているのではなく、あくまでも協会のものとしてお預かりしております。協会側のどこか部屋が出来れば、直ぐにでも移転いたしたいと思います。と申しますのも、なんだかんだ集めてまいりますと、私共で以前から保存していた古い加工機械などを含めると20坪ぐらいの場所がたちまち埋まってしまいます。カードケース1本を入手しますと場所をとります。そういう意味で、出来れば「どこか適当な場所が無いかな」というのがいま一番願っていることでして、国会図書館とかその他の団体にお願いしに行かなければいけないかなと思うしだいです。

 どんなものを集めているかと申しますと、当初は家具を集めればいいなと思っていたのですが、実際に歩いてみますと用品が結構出てまいります。

例えば、戦前に使っていましたラベルの現物が出てきました。たった一枚のラベルなのですけど、「これはどうしようか」と思いまして、持って帰ってきたのはいいのですが、どういう風に整理して、どのように保管したら良いのか未だにわからないでおります。

実際に使用された目録カードも、図書館に行きますともう既に無いのですが、「倉庫に少しほっぽってあった物がありますよ」ということで、それを「少しわけてください」と言って集めてました。中には、成田の図書館のように、筆で書いた目録カードも見つかっていますので、「これもやっぱりとっておかなくてはいけないのだな」となります。

 このようにして集めておりますと、「この品物は一体どんな風に使ったのかな」というものが出てきます。もう使った人が退職しており、お尋ねできないのです。私も会社で一番古いのですけれども、それでもわからない事が多いです。

 極端なことをいいますと、会社の中で謄写版といっても判らないのです。今年のカレンダーの表紙に使いました謄写式プリンターがあります。戸田光昭先生が、日産自動車の資料室で使っていた目録カード複製用のものです。竹内セ先生から古野式として詳しいことは伺っておりましたけれど、いざこれを写真に撮ろうといたしましたら、スタッフは、どういう風に使うのか判らず撮影できないのです。それでしょうがなくて私が呼び出され、保管していた原紙に鉄筆で書いて、「これをこうセットしてこういう風にするんだ」と、「だからこういう写真をとってほしい」となりました。 時には、図書館職員が「確かに何かあると思うよ、一緒に倉庫に行ってみようよ」と案内してくれます。倉庫にはいろいろなものが山と積まれています、その中から探してくるわけです。例えば伊藤伊さんの伊藤伊三郎商店と書いてある箱が見つかったこともあります。

 家具などは、正規の手続きをとって貰ってこなければいけないのですが、正規の手続きという事になると、もらえないことが多いのです。官庁の場合、廃棄するのがいちばん簡単なようで、民間に寄贈するというのは大変な事なのだそうです。「国有財産をやるという事は駄目だ」と、で、「どうしたらいいのですか?」と問答になります、雑談になりまして、「いっそのこと僕の前で捨ててくれませんか? 僕が拾って帰りますから」と言ったのですけれど、それも駄目なのだそうです。ちゃんと廃棄したという書類が必要なのです。

 私共の方で図書館に家具を納品いたしまして、代わりに古い家具を持帰って処分するという正式な契約を受けることがあります。引取った物の中に保存したい物があります。これを元の図書館に「実はこういうわけでとっておきたいのですけれど、許可を頂けませんか」というと、「さあ困った」と言うことになります。「廃棄したものをとっておいて、キハラさんが写真か何かで発表されて、それがどこそこの図書館のものだといわれたら、僕達の立場が無いよ」という訳です。そういうわけで、集めたのですけれども公開することができない物がかなりあります。

 当初はインターネットで写真だけでも公開したいと思いまして準備は進めたのですが、「ダウンロードされたらどうなるんだ」とか、「これを出版物などに使われたらどうなるんだ」とか、と話になりまして、「こちらはそういうことをやってもらうために集めたので、授業を持っている方にはどんどん使って欲しいのです」と言うと、「それはちょっと待ってくれ」ということです。著作権のようなものに、どうも引っかかってしまいます。

 写真のコピーやダウンロードなどの問題、そしてどこにあったかという所有者のお名前の公開など、いま行き詰まってとりあえず物品と所在情報を整理しているところです。

 家具とか用品は、そんな感じですけれど、同時に当時これをこんな風に使っていたという館報などの文献が出てまいります。該当のページだけをコピーさせて頂いておりますが、やっぱり文献も集めなくてはならないと考えています。

 その他に私共には、図書館見学をしたときに撮ってきたスライドがございます。元青山学院大学の古賀節子先生がアメリカの図書館を撮られたものを、「もう自分は正式に引退したから」と寄贈してくださいました。また、元慶應義塾大学の渡辺茂男先生のオープンスクールいわゆるインフォーマルな学校を撮った写真とか、元東京電機大学の藤田豊先生が韓国で撮られた写真なども集まりましたので、すべてデジタル化しております。おおよそ、1,500枚位集まっていますので、これらも公開出来ればと考えております。これは、何十年前かの図書館見学ですので、現在と比べますと興味深いものがあります。例えば、大学図書館ですと入口の近くに目録カードケースがずらりと並んでいますが、今ではそこにコンピュータがずらりと並んでいます。

 故清水正三先生の「図書館の博物館構想」というご提案がありましたが、そこまで持ってゆくのにどうしたら良いのだろうか。経済的にも、資料をどう解説したらよいか、などかなりのハードルがあります。

 「スノーペーク」という商品を、おそらくこの中の大学関係の方々は覚えていらっしゃると思います。タイプライターで打ち間違えたときに修正する白いペンキですが、当初は日本にはなくて外国からわざわざ買ってこられたものです。その後国産品が出来ましたけれど、これもどのような時に使われたか解説しないと、ただの「修正液でしょ」というだけで終わってしまいます。

 また、Gペンと呼ばれるペン先がありました。これで書くと多少太い字がうまく書けるのだそうで、ラベル用にお使いになったそうです。そんなことで、是非お願いしたいのは、われわれのわからないときに、ここにいらっしゃる先生方は、幸いベテラン揃いですので、どんな風に使ったか、どんな苦労があったのかをお聞かせいただければ、今後整理して行く時に、出来るかぎりのコメントを付けてゆきたいと考えております。

 特にカード用紙の大きさの変遷や、複製技術の移り変わりには、興味深いものがあります。謄写版やゼロックスを使ったり、専用のコピー機が開発されたり、皆さんが苦労して使ったわけです。とうとう最後は、「面倒くさいからセンチではなくインチの用紙にすれば、コンピュータで簡単に打てるよ」ということで、カード用紙の大きさを変更したこともあります。

 国際標準といわれる「12.5×7.5cm」のカードですが、いつ日本の標準として公認されたかを示す文献が見つからないのです。もし見つかりましたら是非教えていただきたいと思います。私が知っているのは、「図書館雑誌」の表紙にアメリカのLCのカードが紹介され、「国際標準の目録カード」として大きさがでております。

 そんなことで結局、文献もあたらなくてはならないということになりますが、いまはもう「とにかく関係したものは何でも集めちゃおう」という気持ちです。

 その他にもう1つ大きな問題は、セキュリティの問題があります。「集めたはいいが、これを燃やしちゃったらどうなっちゃうのかな」という不安があります。これに保険をかけておけばいいのかなとは思うのですが、いまのところは、私共の商品と同じように、南越谷市にあります商品センターの一画を仕切りまして、保管しています。

 最後に、集めた資料をなるべく早く公開できるように、少し格好をつけたいなと思うのですが、もう少しお時間を頂きたいと思います。いずれはWEB上か、あるいは私共の方で見ていただけるようにするか考えなければいけないと思います。

今後ともそういう意味で、使い方それからどこに何があるはずだよとか、どこそこにどんなものがあったよとか、情報を是非お教えて頂きたいと思います。

 今目下私が一番集めたい物は、間宮不二夫先生がお作りになった家具です。いまスチール書架とカードケースは手に入ったのですけれど、新聞閲覧台とかキャビネットとかを探しております。あれはがっちりしたものですから、多分捨てないで倉庫の片隅に眠っているのではないかと期待しております。また、図書館用品関連業者の戦前・戦後すぐのカタログ類が何とか残っていないかと思っております。

 取り留めの無いお話で恐縮でございますけれど、今後も努力いたしてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。