皆様、こんにちは。代表幹事をさせていただいております、中央大学の山崎久道と申します。
本日は、図書館サポートフォーラム表彰式並びに懇親会にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
この会の目的は、皆さんもご存知の通り、図書館の社会的使命を考え、社会に対する図書館というものの意義と有用性を語って、そういうものを広めてゆくことです。こちらに座っておられる末吉哲郎さんが最初の代表幹事としてお始めになられ、その後、末吉さんが10年くらい手塩にかけてお育ていただいた会で、私がその後を引き受けさせていただいています。
日本国内での図書館というものの立場というものが、強固なものかと言うとそうでもなく、最近よく教育の問題でフィンランドのことが話題になりますけれど、図書館先進国でもあるフィンランドに比べると、大分見劣りがします。事実フィンランドというのは、OECDの学力調査で常に上位に来るわけですが、その背後にある図書館の整備充実ということについて、図書館界の人以外ほとんど誰も知らない。
フィンランドの図書館とは、人口あたりの図書館数でみても、整備の経費ということでみても、日本の7倍くらいある。そういうことがあって、あるいや、そういう風な読書環境というものが明確に整備されているなかで、初めて教育が効果をもつのだろうと思われます。ですから、カリキュラムをいじったり、科目をちょっとかえてみたり、それだけでフィンランドのようになれるかというと私は疑問だと思っておるのです。文化政策全体がきちんとした方向性を持たない限り、この国の教育水準は、上がっていかないのではないかという危惧を持っております。
その意味でこのフォーラムは、非常にささやかな組織ではありますけれども、ここに集まっておられる方々は、大変な力量とご経験の持ち主ですから、是非その意味で日本の図書館を巡る状況を大きく展開をさせていただけるようなお力をいただければありがたいというふうに思っております。
その意味で、図書館の社会的使命をもっともっと訴えられるよう、このフォーラムの設立のときから末吉前代表幹事の非常に強い思いを受けて、表彰ということを行っております。
これは、図書館について、その社会的使命を広める活動をされた方、国際化に貢献された方、人知れず図書館員の専門性に裏打ちされたようなお仕事をずっと続けてきて、その素晴らしい成果を顕彰させていただくということなどが軸になっています。毎回いろいろ議論をしながら、表彰者を決めさせていただいて、その方々をお招きして、お話を伺ったり、楽しくみんなで過ごしていただき、図書館というものの明日を考えるというのが、この会の趣旨ということになっております。
ぜひ皆様のお力をお借りしながら、この会を受け継いでいければというふうに思っておりますので、よろしくお願いをしたいと思います。
今回は、12回目の表彰になりますけれど、素晴らしい表彰者が決まりました。
後でご披露いたしますけれども、そういった意味でこの表彰を今後の日本の図書館界なり、皆様の活動なり、あるいは経営プロセスなりにいろいろな意味でインパクトを与えて、今後の発展につながって行くことを祈念して、今日は皆さんと一緒にお祝いをしたいと思っております。どうかよろしくご協力の程お願い申し上げます。ありがとうございました。
今日は、戸田光昭表彰委員長の代理ということでお話をさせていただきます。
2010年2月23日に開催されました表彰委員会で10組の個人・団体の候補者の中から慎重・審議の末、2名と1団体を表彰させていただくことに致しました。
それが、皆様にご案内したように、「木原祐輔」様・「吉村敬子」様・「神奈川県立川崎図書館」様です。
この「図書館サポートフォーラム賞」というのは、基本的に個人を顕彰するということをその方針としております。
しかしながら今回は、特に非常に優れた業績をあげられた図書館ということで、「川崎図書館」に対して皆さんから強い推薦とご支持があったものですから、表彰委員会でいろいろ審議をした上で、喜んで賞を差し上げるという事になった次第でございます。
従って今回は、2名1団体の表彰になったということをまずお断り申し上げておきます。
では、おひとりおひとりの表彰理由等を読ませていただこうと思います。
表彰理由については、今日配布をさせていただいた資料の中にございますので、ぜひお目通しをいただきたいと思います。
この表彰理由については、今日いらっしゃられなかった戸田光昭さんが、たいへん行き届いた文章をお書きになられておりますので、私はそれをまず読ませていただこうと思います。
まずお一人目「木原祐輔」様、キハラ株式会社会長。表彰理由。
キハラ株式会社の代表を1965年から最近まで50年近くつとめ、一貫して良質の図書館用品を提供してきた。2004年からはキハラ創業90周年記念事業としての「歴史的図書館用品の調査・収集・保存」事業を、日本図書館協会からの委託を受けて先導して行っている。
これは図書館用品の一層の品質向上をはかるとともに、近代日本図書館史研究に多大の貢献をもたらすものである。故清水正三氏が提唱された「図書館博物館構想」を、ぜひ実現できるよう、これを契機に、図書館界あげての支援体制ができることへの期待も込めて表彰する。
ご存知のように皆様、図書館用品の世界は、「キハラ」さんが一番ご存知だと思うのですけれど、IT業界の進歩があって大きく変わってきていると思います。
私のようなものでもわかるのですけれども、そこには一貫してその資料や情報を保存して、何とか整理して人々に提供して行くんだというそういうスピリットと言うか、利用しやすくして行くんだという精神が流れているのではないかと思います。
とにかくそういう歴史的な図書館の用品とか器具とかいった物は、放っておけばなくなってしまうわけです。ですからいま木原さんがなさってこられてきたことは、いわば歴史そのものを構築するような非常に価値のある試みで、大変に大切な試みであると思います。
これは、かつて末吉さんが提唱されている産業考古学ですね。図書館の経営史一面 にもなるのかなという気がします。
きのうテレビを見ておりましたら「クローズアップ現代」で「廃墟を訪ねる」とか、「軍艦島」とかが話題になっていました。なにか、最近は、産業遺産への観光旅行がありますね。
ぜひ昔の図書館とか、「廃墟」という言葉はあんまり良くないのですが、そういうのを見学する会をこのフォーラムで企画したらいいのかななんて気もしています。
キハラさんが前に作られていたカードボックスなんてものは、いま見たことのない学生なんかがいっぱいいるわけですよ。それによって、図書館のいろんなカードを検索する・並べる。昔は「同じカードを何枚もコピーして大変だったんですよ」なんて言ったって、コンピュータデータベースに慣れた人には、「何でそんなことをしてたの?」というような話になってしまいます。
「書名順で並べたり、著者で並べたり、件名で並べたりするんですよ」というような言ってみても、現物を見せたほうがすごく早い。
だからキハラさんが昔の図書館用品を展示する施設を作られたら、図書館情報学を勉強する学生が実習に行ったり、見学に行ったりすると思うんです。是非そういう立派な図書館博物館を作っていただいたらいいと考えております。
ありがとうございます。
二番目の表彰の方。「吉村敬子(よしこ)」様、元米国議会図書館(LC)に勤務されていた方でございます。表彰理由を読ませていただきます。
WDC(ワシントン文書センター)に保存され、後に米国議会図書館の現アジア部日本課に移送された、日本の戦前・戦後検閲資料ならびに文書の目録が、前2冊(米国議会図書館発行)に続くものとして、今回「戦前・戦後検閲資料及び文書」全3巻としてまとめられ、2009年7月に文生書院から刊行された。
この目録は主要な資料・文書には注訳がつけてあり、全ての資料・文書は原本にあたった上で、原稿を作成したものである。著者である吉村敬子さんは、東洋文庫、ハーバード大学イエンチン図書館、米国議会図書館などに勤務し、その目録作成の経験を生かし、1998年の退職後に本書をまとめられた。単なる目録ではなく、詳細な注訳がなされた労作である。
長年の経験を生かして執筆された本書を、昭和史研究に必携の貴重な著作として評価し、表彰する。
皆さんご存知の通り、日本が戦争に敗れた後、占領軍が日本に入ってきて、その後日本の文書を接収して、議会図書館に多くのこういう文書があるんだそうです。
それをその膨大な資料の中で整理をして、どういうふうな文書があるかを明確にされたということで、本当に日本の戦前・戦中の歴史が手にとるようにわかるような非常に大事な仕事をされたと思います。
目録や文献をガイドするということは、図書館員のなしうる非常に大事な仕事だと私も思います。
しかし、いまの図書館員は、「そんなことは図書館員の仕事なのか?」と言うかもしれません。
目録ですらコピーをして、自分の図書館に入れるという時代です。
ですから、本当にこの自分で自前の資料を自分で整理して、自分でその件名を考え、自分で分類を考えてやるということがどこまで出来るのでしょうか。そのことが図書館員の非常に大きな使命であり、専門性だったと思うんですね。
そのことがむしろいま認識が薄れている。
だから図書館で、ある情報を整理して電子的に提供出来る仕組みを作りさえすればいい。
情報そのものを整理したり、纏めるっていうことは、図書館員じゃない人がどんどんやって、むしろその方がいいんだという議論もあります。
私は、ちょっと違うんじゃないかと思います。
やっぱり、情報をきちんと整理して、みんなにわかりやすく提供するということが、図書館員の本質的な部分じゃないかと思っています。吉村さんは、見事に、しかしながら非常に大変な労力をかけて、そうした図書館員の専門性を発揮された。 それも、そういう仕事を個人としてされたということが驚嘆に値します。こういう煩雑な仕事に着手され、見事に成果をあげられたという点で表彰させていただきたいと思います。
吉村さんには、本当はこちらに来ていただきたかったのですが、アメリカにお住まいですので、今日は千代さんに代わりにあとでご挨拶をいただきますけれど、吉村さんのメッセージもご披露いただけるのではないかというふうに思っております。よろしくお願いいたします。
三番目の表彰の方。「神奈川県立川崎図書館」様。表彰理由を読ませていただきます。
神奈川県立川崎図書館は、1958年に設立され、50年以上の歴史を有する公立の産業図書館である。県立図書館としては珍しいが、神奈川県立としては二つ目の図書館であったという事情もあり、一般的な公共図書館ではなく、最初から所在地である川崎市が京浜工業地帯の中心であったことから、その機関誌を「京浜文化」と命名するほどに、京浜地区の産業発展に寄与することを目指してきた。
いわゆるビジネス支援図書館の草分け的な存在であり、しかも、神奈川県資料室研究会という地域密着の図書館支援組織を図書館設立直後から立ち上げ、図書館が地域を支え、行政も含む地域が図書館を支援し、活用するという理想的な図書館活動を行ってきた。ビジネス支援図書館の先駆として、さらに、神奈川県資料室研究会という支援組織の事務局として機能してきたことを高く評価し、表彰する。
皆様ご存知の通り、最近では公共図書館のビジネス支援というのが流行しております。
しかしながら、県立川崎図書館さんは、当初から図書館運営の柱としてビジネス支援ということを掲げられたわけです。それに関連しているのが、いわゆる「神資研」ですね。この中にも関係の方が何人かいらっしゃるかと思いますが、「神奈川県資料室研究会」です。この団体もその流れの中で運営されてきているのだと思います。
わたしも「神資研」のメンバーの方から何人かお話を伺ったことがありますが、「神資研」の運営は「川崎図書館」の存在なし全く考えられない、ということです。
「県立川崎図書館」あっての「神資研」であるということを何人もの方々が異口同音におっしゃられておられます。
そういう意味で、公共図書館を運営してきたということに対し敬意を表し、この図書館サポートフォーラム賞を贈らせていただくというふうに考えております。またあとでご挨拶をいただきますが、ぜひそういう風な私どもの意図するところをおくみいただければと思っております。
以上が表彰についてのご紹介でございまして、あとは、それぞれの表彰者からいろいろとお話を伺おうと思っておりますけれども、受賞の皆様に共通するのは、確固たる信念とゆるぎない実行力だと思います。
三者三様に、もちろん分野は違いますけれど、そういう風なことがやはり大事な事だと思います。図書館の活動の中で信念を持つこと。そして実行力を持ってやるということ。
これがいまの図書館員の方たちに対するこの表彰から贈ることの出来るメッセージであろうかと思います。
その意味でこういう素晴らしい数々の推薦をしてくださった皆様、また数々の候補を上げて下さった方々、そして幹事会で議論をしていただいた幹事の皆様、そして事務局として煩雑な事務、特に表彰に関する事務は、大変デリケートな部分もありますので煩雑になるのですが、事務局である「日外アソシエーツ」の皆さんが、きちんとやっていただいて今日の表彰式を迎えることができたことを大変ありがたいことだと思っております。以上で表彰経過の説明にかえさせていただきます。どうもありがとうございました。