本日は、図書館サポートフォーラム賞という、大変名誉ある賞をいただき、本当にありがとうございます。この場を借りまして、私がアークどこでも本読み隊(以下アーク)を立ち上げるにいたった経緯を、タイの読書事情を含めてお話させていただきたいと思います。
私は、物心つくかつかない頃から、自他共に認める本の虫として育ってきました。ですが、生まれつきほとんど視力がなかったため、家族や近所の親戚に、もっぱら読み聞かせをしてもらっていました。絵本は字が少なく、お話としての物語性が少ないため物足りなかったのか、ずいぶん小さい頃から主に児童図書を好んで読んでもらったように記憶しています。点字が読めるようになってからは、全国の点訳・音訳ボランティアの皆さんが作ってくださった図書を片っ端から読みました。つまり、現在に至るまで、私の読書生活は、多くの方の支援の上に成り立っているのです。
成長する中で、国際協力の分野に興味を抱くようになったのですが、大学時代から毎年のように通うようになったタイの読書事情を知ったとき、自分自身がいつも回りの皆さんにお世話になっているこの分野で、私も何かしたいと思うようになったのは、とても自然なことのように思います。
タイは東南アジアに位置する中進国で、識字率は男女共に90%と、一見比較的恵まれた環境に見えます。しかし、平均読書量が年間一人当たり7行などというデータが、まことしやかに出回るほどの読書貧困国です。特に、子供たちの置かれた状況は深刻です。実際ユネスコの調査によると、同じくアセアン(ASEAN)に属するシンガポールやベトナムで、子供の年間平均読書量が40〜60冊であるのに対し、タイでは平均5冊しか読まれていません。大人で本を読むのは、ほとんどが都会のいわゆるホワイトカラーと呼ばれる中流階級以上の層に限られています。
これには、市場のほかの商品に比べて、書籍の値段がかなり高価であることや、図書館や書店が少なく、そのほとんどが都会に集中していること、また多くのタイ人が、本に対して、勉強のための小難しいやっかいな存在だという、偏ったイメージを持っていることなどが原因として挙げられます。このように、一般の国民にとっても手が届きにくい書籍は、障害者や高齢者、貧困層や少数民族など、より社会的に弱い立場にある人たちにとって、さらに遠い存在になってしまっているのが現状です。
私は、アークどこでも本読み隊という小さい団体を立ち上げ、2010年から読書とタイの人たちをつなげる活動をしてきました。現在、北部のチェンマイ県プラオ郡で蔵書5,000冊弱のランマイ図書館を運営し、そこを中心に郡内の村や僻地の学校などに移動図書館活動を展開しています。また、母語や文化がまったく違うために、就学時に遅れがちになる山岳民族の子供たちに、幼児期の段階で基礎的な識字能力を身につけてもらうためのセンターを2箇所運営しています。全体をあわせても職員6人という、非常に小さな団体で、活動も草の根そのものなので、国全体でみて影響力があるものとは言えませんが、一人でも多くの人たちに読書の持つ魅力、本が導いてくれる世界の広さを実感してもらえるようにと日々願いながら活動しています。
読書とは、どんな環境にいても、そこから1歩も踏み出すことなく、広い世界を存分に眺め渡すことができる大きな窓だと思います。私自身、高知県の兼業農家の次女として育った幼少期より、この魔法の窓からたくさんのものを見てきました。年齢や経済状況、障害の有無に関係なく、多くの人たちにこの窓の存在を知ってもらい、カーテンを開けてさまざまな景色を楽しむ醍醐味を知ってもらえるような活動を、今後も続けていく所存です。
最後になりましたが、まだ活動年数5年にも満たないアークを運営する私に、このような機会をくださった図書館サポートフォーラムの皆様に、改めまして心より御礼申し上げます。有難うございました。
(下の写真は代理出席の岡村氏)