谷合佳代子 氏(大阪産業労働資料館「エル・ライブラリー」館長) 受賞のことば


第14回 LSF賞 みなさん、こんにちは。

 ご紹介いただきましたエル・ライブラリーの谷合です。このたびは図書館サポートフォーラム賞をお授けいただき、ほんとうにありがとうございます。

 こういう場合、「皆様のおかげで」というのが習いですが、慣用句ではなく、ほんとうに「皆様のおかげ」と思っています。というのも、全国の皆様の支援がなければエル・ライブラリーは存続できない図書館だからです。

 2008年に橋下徹知事によって補助金を全廃され、極端な財政難の中をこれまで図書館を維持できたのも、大勢の方の物心両面のご支援のおかげです。お金がないのは相変わらずで、実はこの受賞のお知らせメールが届いたとき、一瞬「新手の振り込め詐欺か」と思ったのです。「お金のないところに振込詐欺のメール送ってきてもしょうがないのになぁ、ここ金ないで」とか心の中で思いながら最後まで読んでも振込先口座が書いていなかったので、「あ、本物か」とわかった次第です。本物と分かった瞬間には、本当に嬉しくて、喜びが込み上げてきました。館長補佐千本沢子(ちもと・さわこ)と二人三脚で頑張ってきてよかった、としみじみ思いました。

 また、今回の授賞理由の中でsaveMLAK の活動にも言及されています。今朝、saveMLAKの会議が東京であり、それに参加してきたばかりで、saveMLAK の東日本震災復興支援活動も同時に評価していただけた、と仲間たちも喜んでいます。

 そもそも当館がエル・ライブラリーという名前になってまだ5年目です。設置法人である公益財団法人大阪社会運動協会(社運協)は1978年の設立以来30年間、大阪府・市の補助金によって『大阪社会労働運動史』編纂と資料収集を続けてきました。2000年から8年間は大阪府の委託を受けて大阪府労働情報総合プラザの運営を行い、利用者を4倍に増やして経費は40パーセント以上削減するという成果を生みました。

 にもかかわらず、橋下徹知事によって年度途中でプラザは廃止、補助金は全廃されました。同時に大阪市からの補助金も全廃となり、わたしたちは年間収入の7割を失うことになりました。橋下知事は自分がつぶす図書館の視察にも来ませんでした。本当に悔しい思いをしました。

 ふつう、こういう場合、会社なら「倒産」だと思うのですが、私たちは、ここにしかない貴重な資料を集め続けて30年、数万点の労働組合や市民活動の一次資料を所蔵していました。それを散逸させるわけにはいかない、大阪の文化歴史的な財産を次の世代に引き継ぐことが私たちの使命であり責任だと思い、新たな図書館を立ち上げることを決意しました。社運協の資料はほとんどが寄贈によります。「わしの大事な資料を、わしが死んだら息子は捨ててしまう。社運協に預けたら永久保存や」と言って私たちに資料を託してくれた人たちを裏切ることはできません。図書館運営をあきらめてしまえば、責任を放棄したことになります。なんとか三年間はたとえ無給になっても頑張ろうと決意しましたが、給料が下がると生活できなくなる職員1名にはやむなく転職してもらい、残る3人が自分たちの給与を大幅にカットしました。

 プラザ廃止後はただちにサポート会員制度を敷き、全国からカンパを集めました。また、無償ボランティアを名乗り出て下さる方たちがいて、この4年以上、ボランティアスタッフに助けられてきました。その方たちは大阪府立図書館を退職された司書で、プロボノ・ボランティアの典型として、私たちのお師匠さんとしても頼りになる方たちです。これまで交通費すらお支払せず、無償で仕事してもらい、さらに寄付金まで頂戴してきました。また、当法人の退職役員も無償ボランティアでずっと支えてくださっています。

 しかし財政は火の車です。大阪府に払う家賃も毎年値上げされ、お金集めに必死になってきたこの4年半でした。寄付以外には原稿料や講演料、本の編集料、助成金獲得、バザーなどで稼いできましたが、電話代が未払いになって、電話を止められたこともあります。その時はTwitter に「ただいま電話が通じません。お急ぎのかたはこちらにどうぞ」と私の携帯電話の番号を書いてつぶやきました。

 またある時は、千本が社運協の貯金通帳を眺めながら、「谷合さん、今月わたしたちのお給料、出せません」と蒼い顔で言ったのには非常にショックを受けました。何がショックかというと、「給料が出ない」という事態に動揺している自分にショックを受けたのです。「『たとえ給料ゼロになっても頑張る』と大口たたいたのに、実際にはゼロになるという覚悟ができていなかった」と気づいて、自分は意気地なしだと自覚しました。その時は幸い、カンパを掻き集めて給料は出せました。以来、遅配・無配はありませんが、綱渡り状態は改善できず、去年から正職員を2人に減員して緊縮財政を続けています。今では開き直って、「日本一貧乏な図書館」を売りにしています。

 サポート会員を増やすためには広報が命、とにかく全力でブログ・twitter・facebook・メールマガジンといったネットを使った広報を活用し、さらにはエル・ライブラリーとsaveMLAK のコラボTシャツを着て大阪マラソンにも出走し、広報に努めました。マラソンなんてそれまでしたこともない初心者でしたが、なんとか6時間44分かかって完走しました。その時は、「初心者が大阪マラソンに出るぞ出るぞ」とブログに何度も掲載したところ、アクセス数が跳ね上がったので、広報の効果はてきめんにあったようです。エル・ライブラリーという図書館がある、ということを知ってもらえただけでもよかったと思いました。

 先日、この苦労を理解してくださっている方から、こんなメールをいただきました。

 「本当に心よりお祝い申し上げます。授賞理由の“実情は言葉にし難いほどの苦境にあって、なお〈21世紀のアーキビストたる自覚と矜持〉を持って邁進されるその姿勢と図書館経営の維持の功績について、その意義を高く評価し表彰するものである。”という文言に涙が出そうになりました。地道な努力を見てくれる人は見て、きちんと評価してくれるのですね。大変な状況は変わらないと思いますが、ますますのご活躍をお祈りしています。千本さんにもよろしく」

 サポートフォーラム賞をいただけたおかげで、このようなお祝いのメッセージをたくさん頂戴しています。本当にありがたいことです。

 エル・ライブラリーは「助けられたら助ける」をモットーにしています。「支え合う社会」が理想だと思ってこれまで頑張ってきました。支援をいただいているのだから、それは図書館活動によってきちんとお返ししないといけない。また、自分たちが支援できることがあれば、それも全力でやっていかねばならないと考えています。東日本大震災直後から、文化施設の復興支援ネットワークである「saveMLAK」のボランティア活動に着手し、関西での拠点作りを担っているのも、そのような気持ちからです。

 さて、エル・ライブラリーは座して支援を待っているだけの図書館ではありません。これまでアクティブに図書館活動を展開してきたつもりですし、これからも市民活動の拠点としてのエル・ライブラリーの存在意義を示していきたいと考えています。そのために、今年は新しいことを3つ始めます。

 その1、「エル・ライブラリーを大人のラーニングコモンズに」。平日夜に少人数の勉強会用として、閲覧室を無料開放します。図書館資料を活用する勉強会やプレゼンの練習に貸切で使ってもらう、という趣旨で、当面はサポート会員に利用を限定しますが、様子をみながら一般開放へと移行予定です。

 その2、明治〜昭和戦前期の『大阪毎日新聞』の記事索引3万件をデータベースで公開します。これは『大阪社会労働運動史』を編纂するために15年かかって収集した記事の見出し索引のうち、戦前編を公開するというプロジェクトです。久保在久さんという在野の労働運動史家のボランティアによって、手書き索引が電子化されました。

 その3、「れいこちゃん記念文庫」を開設します。去年の6月に11歳で脳腫瘍のために亡くなった井上玲子ちゃんを悼み記念する文庫を設置し、病気の子どもたちを支えるNPOの資料を集めて情報発信します。井上玲子ちゃんは、エル・ライブラリーの広報大臣を自任する「空手家図書館員」こと井上昌彦さんの娘さんです。玲子ちゃんは闘病中に、お父さんともどもエル・ライブラリーを応援してくれました。

 二度お見舞いにいっただけなのに、なぜか私のことを気に入ってくれていたようで、親しみをこめて「たにあん」と呼んでくれました。私が2011年秋に大阪マラソンに出走したときは、すでに右半身が不自由になっていましたが、動く左手だけでクッキーを焼いて応援メッセージも書いてくれました。父の井上さんがマラソン当日にそのクッキーをエル・ライブラリーに届けてくださり、私はマラソン完走後、自宅に帰って一人、不揃いな形の手作り感あふれるクッキーを眺め、ポロポロ涙をこぼしながら食べました。れいこちゃんからもらった応援メッセージは宝物として今でも大切にしています。

 玲子ちゃんが亡くなったあと、谷合・千本の二人が父の井上さんからいただいた「お見舞い返し」の図書カードを基金として、れいこちゃんを記念することに使えばどうか、というアイデアを出したのは館長補佐の千本沢子です。井上さんのご了解を得て、「記念文庫」を設置し、れいこちゃん一家の闘病を支えたNPO法人の支援に役立てることを決めました。具体的には、難病の子どもたちを支援するボランティア団体の関連図書などを購入し、情報を収集・発信すること、さまざまな形で少しずつ関連資料を集めていくことを通じて、市民活動を支える、という趣旨です。

 エル・ライブラリーは、「お金がないから、人手がないから」といって縮み志向にはなりません。できることは全部します。あらゆるリソースを使い、ネットワークを広げ、これからも頑張ります。どうかこれからもご支援をよろしくお願い申し上げます。

 今日は本当にありがとうございました。