表彰講評 水谷長志 氏(表彰委員会委員長)


 図書館サポートフォーラムの表彰委員長をしております東京国立近代美術館の水谷長志と申します。よろしくお願いいたします。

 では、第15回図書館サポートフォーラム賞の表彰についてご報告いたします。

 その前に、この図書館サポートフォーラム賞が15回続いたということ、そのことをまず皆さまと確認し、お祝いして、是非、この賞が20回も30回も続くことを願いたいと思います。

 節目ともなる15回の今回は、推薦により6件、個人5名・団体1件の方が表彰候補となりました。この数は、例年より若干少ない数の推薦ではありますが、今年もまた、いずれの方についても、図書館員および図書館の外から図書館をサポートするお仕事をされている方々であり、いずれも高い業績と評価をすでにお持ちの方々でありました。

 例年は3件の受賞ということになるのですが、今回は、結果的には、団体1・個人1の計2つの受賞となりました。と言いますのは、受賞の2件を除くほかの4件の評が、きわめて僅差となって、第3の受賞者を決することが、極めて難しく、決選投票という意見も上がりませんでしたので、若干少ない推薦の年でもありましたので、自然の流れで、この15回は、受賞2件に落ち着きました。正直な感想としては、今回受賞の1団体・1個人に限らず、6件すべての候補の方々にこの賞をお受けいただきたかったというのが、毎年のことですが、表彰委員長の本音であります。

 この図書館サポートフォーラム賞は、原則、フォーラム幹事の投票によって決めるものであり、本年も、3月12日、日外アソシエーツの会議室におきまして、11名の出席幹事の投票および4名の通信投票を踏まえ、かつ厳正な討議の結果、このような結果として決めさせていただくことになりました。そして受賞は、岩瀬文庫ボランティア様とエル・ライブラリー館長の谷合佳代子様の1団体・1個人が、第15回図書館サポートフォーラム賞を受賞されることになりました。

 では、第15回図書館サポートフォーラム賞表彰理由について述べさせていだきます。

 まず、岩瀬文庫ボランティア様から表彰の理由を。


 愛知県西尾市に所在する岩瀬文庫は、明治41年、市内の実業家・岩瀬弥助の私財により設立された古典籍中心の私立図書館を起源とし(昭和30年に市の所管となる)、重要文化財である後奈良天皇宸翰般若心経をはじめ極めて多岐に渡る稀覯本を含む蔵書を有している。和装本の綴じ直しや中性紙保存帙の作成などの蔵書の保存修復、各種講座や広報活動の支援のためにボランティア・グループが平成17年に組織され、今日50名を越す会員により一貫して岩瀬文庫を西尾市の文化の顔たらしめて来た。“古書のミュージアム”という、公立博物館としては非常にユニークな岩瀬文庫を支援するこのボランティアの活動は、地域コミュニティの文化拠点の形成の範となるものとして、その意義を高く評価し表彰するものである。


 近年、MLA連携、すなわちミュージアム、ライブラリ、アーカイブの連携ということがよく言われますが、「古書のミュージアム」である岩瀬文庫は、まさにその存在自体が、MLA連携であるように見えます。その岩瀬文庫を「蔵書保存」「講座サポート」「宣伝」「イベント」そして各種の「講習/研修」を支えているのが、今回受賞の岩瀬文庫ボランティアの会です。

 岩瀬文庫のホームページも小粒ながらいろいろ面白くて、「定年退職したら岩瀬文庫へ行ってみよう 文庫オヤジのススメ」など、読み物としても楽しいのですが、「古典籍書誌データベース(1〜160函)試運転中 ご案内」というのがあって、このデータベース自体が、多様なMLAの資料を内包していて興味深いのですが、その案内には、

 「古書ナシニ一日モ生キルコトガ難シイ そんな私たちに、明治の岩瀬弥助翁は偉大な文庫を贈ってくれました。その恩に報いるため……三ツノオ願イ」

 として、

 「一 古書をとりあつかう方、昔の人や事物を調べている方は、折に触れて検索をかけてみて下さい。ぱらぱら散在する資料の間に、さまざまな連関を見出すことができるはずです。

 一 データベースの記述に誤りや不適切があれば、ご教示下さい。……何か新たな発見があれば、その喜びを共有させて下さい。

 一 ……ともに日本の豊かな書物文化を解明し、前人未知の領域に達しようではありませんか。」

 と書かれてあります。

 このテキストは、岩瀬文庫資料調査会によるものですが、このようなメッセージに富む活動を支えているのも、岩瀬文庫ボランティアであれば、その活動のレベルの高さは推して知るべし、であろうかと存じます。そして、文庫ボランティアが、地域コミュニティの文化拠点の形成の要になっているのが、実によく分かります。

 私はまだこちらの文庫を実見したことはないのですが、名古屋で時間があったらならば、ぜひ足を運びたいと願っております。

 次に、谷合佳代子様 ( 大阪産業労働資料館「エル・ライブラリー」館長) です。


 「働く人々の歴史を未来に伝える図書館」をモットーとする愛称エル・ライブラリーは2008年の開館であるが、その前身である大阪社会運動協会の資料室は1978年以来、労働組合や企業、市民団体の貴重な歴史的資料を数万点所蔵する歴史資料館であり、最新の労務管理情報・賃金データなどを収集する図書館として活動してきた。近年、母体である財団法人大阪社会運動協会への大阪府・大阪市からの補助金全額廃止という事態にもかかわらず、同協会の公益財団法人化を果たした谷合佳代子氏は、館長として、千本沢子(ちもと さわこ)館長補佐とのコンビにより、労働専門図書館の活動を継続しつつ、さらにsaveMLAK の活動にも果敢に取り組んでいる。実情は言葉にし難いほどの苦境にあって、なお「21世紀のアーキビストたる自覚と矜持」を持って邁進されるその姿勢と図書館経営の維持の功績について、その意義を高く評価し表彰するものである。


 エル・ライブラリーの「広報大臣」を拝命されているという関西のIさんによりますと、Iさんが、「日本一ビンボーな(決して貧しいではない)図書館」と呼んでいるエル・ライブラリーは、「気合いと努力と根性だけで頑張る図書館」であり、きっと、「日本一アツい図書館」でもある、とのことです。

 それは、補助金の全額廃止から立ち上がっただけではなく、エル・ライブラリーのホームページ、ブログ、saveMLAK のメーリングリスト、Twitter にfacebook などのSNS等々、可能な限りのメディアと機会を尽くして、声を、思いを伝えよう、そこには必死さもあるけれども、それだけではなく、ユーモアと何よりも情熱を伝えるメッセージの熱さに、多くの図書館人とその枠を越えて、共感の輪が広がっているからであります。ここに、今の日本の図書館の再生の本源的な可能性を垣間見るのは、私だけではないでしょう。

 おそらくは今後、劇的にエル・ライブラリーの状況が緩和・好転することはないかもしれません。苦戦は続くでしょう。けれども、その奮戦の過程を支え、あるいは遠望し、ウォッチするだけであったとしても、われわれは、ただし、決して忘れないこと、忘れないことは、3・11のあの惨禍についても言えることであるのですが、日本の図書館あるいは文化継承の機関の、いずこも陥る可能性としての状況の困難さを共有する試金石として、私たちは、エル・ライブラリーの存在自体を貴重なものとして尊敬し、今後とも、観て、かつ把握して行きたいものと考えています。

 今回の受賞者はいずれもユニークかつ貴重な活動例を示し、図書館あるいはミュージアムの可能性を開いているものです。推薦の方々の慧眼にもまた敬意を表したいと思います。

 さて、昨年も申しましたが、図書館サポートフォーラムは、名称もLibrary Support Forumであります。Librarian Support Forum ではありませんので、図書館員のみを、表彰するものではありません。

 図書館の外から図書館と図書館員をサポートする方へも、この賞の門戸は開かれております。来年もますます広く、図書館をサポートする多彩な方々のご推薦を切にお願いして、表彰の講評とさせていただきたいと存じます。

 ご静聴ありがとうございました。