図書館サポートフォーラム賞受賞に当たり、一言ご挨拶申し上げます。
3月、表彰のお知らせをいただいたときは、この表彰を受けることになって、とてもうれしい、素直にそう思いました。ちょうど、DJIレポート、つまり国際資料研究所報のNo.100を3月15日付で発行したのと表彰のご連絡がほぼ同時期であったことも手伝い、これまでの仕事が一段落という感じもありました。表彰理由で、「近年の日本におけるアーカイブズ事業のほぼあらゆる方面において国際的、先導的 かつ啓蒙的な活動を展開されてきた」とご紹介にあずかりましたが、言い換えれば他にこの分野で活動しようとする人がほとんどいなかったということなのではないかと思います。
思い返せばアーカイブ、アーカイブズは歴史学研究の補助学であるといわれ、びっくりしたり憤慨したりしたのは東大百年史の時代、1980年代中期でした。結構悔しいと思ったので、心の中で「いつか、その言葉をひっこめてもらおう」と決心した記憶があります。でも、それが正確にいつだったのか、記録していないからわかりません。
その後1987年に国立公文書館の職員となり、ICA国際文書館評議会(国際公文書館会議、国際アーカイブズ評議会などの訳もあります)を中心とした国際関係を担当しました。
1992年6月に国立公文書館を退職しました。フルタイムでの国立公文書館勤務の中での子育てに問題を感じたからでした。退職後は、1985年以来続けてきていた全史料協に活動の場を得ることができました。ICAの活動に参画するに当たり、全史料協の国際担当の立場を与えられました。1992年から2008年まで16年間、全史料協の立場でアーカイブの国際世界をウォッチしてきました。
この間、1995年1月、阪神淡路大震災が起きました。この地震が文書館にどんな被害をもたらしたのかを知りたくなり、現地に出かけました。なぎ倒された書架とそこから落下した資料が、文書館の被害そのものでした。ある美術館では展示作品が倒れて壊れたということも聞きました。地域の古文書の被災状況を調べている人がいる一方、古物商が被災現場で資料を買い漁っていることも知りました。こうした現地の様子を他の人にも知らせたいと思い、ワープロで現地レポートを作りながら、ふと「これは新聞みたいにタイトルをつけたらどうかな。隔月刊なら、しばらくしたらまた書きたいことも見えてくるだろう。」と極めて安易な気持ちで『DJIバイマンスリーレポート』準備号No.1、というタイトルをつけました。国際資料研究所の活動の発信が、この時から始まりました。その後、タイトルから「バイマンスリー」を削除し季刊発行のアーカイブ専門誌、DJIレポートということで今日に至っています。今100号全体の内容を振り返ると、アーカイブ界の話題提供のツールをめざして続けてきたという気がします。文書基本法を作れ、記録管理院を整備せよ、といった政治向きのカタイ話題から、ノミの市で買ってしまったアーカイブの箱のお話、時には猫の訃報に至るまで、何でもアリの紙面構成です。
そのDJIレポートNo.100 を今日はお手元に配らせていただきました。
実のところ、DJIレポートは発行することに追われているため、あまり振り返ったことがありません。ところが、今日はこの受賞理由として「近年の日本におけるアーカイブズ事業のほぼあらゆる方面において国際的、先導的かつ啓蒙的な活動を展開」したことを挙げていただきましたので、DJIレポートを用いてこれを少しは証明できるかもしれないと思い、目録を眺めてみました。わかったのは、全部で93回発行されたこと、電子版になったり、時々紙媒体でも発行されていたりすることなどです。本日配布の100号は、奥付に○紙のマークをつけました。ホームページに掲載済の電子版(PDF)と区別するためです。(DJIレポートはバックナンバーの大半も国際資料研究所のホームページに掲載しています。)
また、電子版も含め、No.5からNo.90ごろまでは企業広告掲載で応援をいただいてまいりました。本日ご列席の国際マイクロ写真工業社様はじめ関係企業の皆様のご厚意によるものです。
最後に、2冊の本のことをお話ししてご挨拶を締めくくりたいと思います。どちらも大阪大学出版会にお世話になりました。一つは2009年以来取り組んできたUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のアーカイブ資料整理の報告を兼ねた、『アーカイブ・ボランティア』で昨年6月発行されました。これは文字通りアーカイブのためのボランティア作業を紹介する本で、私は国連のアーカイブ資料や、チェルノブイリ事故後にユネスコが作成した放射能汚染資料の除染マニュアルの解説を担当しました。もう一つは『アーカイブ基礎資料集』です。5月1日納品予定の『アーカイブ基礎資料集』は、大学での授業で使うことを念頭に、公文書館法や公文書管理法などの法令や行動規範をまとめました。どうぞご期待ください。
以上でご挨拶を締めくくりたいと存じます。ご清聴ありがとうございました。