表彰講評 水谷長志 氏(表彰委員会委員長)


 図書館サポートフォーラムの表彰委員長をしております東京国立近代美術館の水谷と申します。よろしくお願いいたします。

 早速ですが、第19回図書館サポートフォーラム賞の表彰結果について、ご報告いたします。

 今回は、図書館サポートフォーラムの会員および事務局より、個人6名、団体5件、11件の表彰候補が推薦されました。

 この数は昨年の11件と同数ですが、団体が結果として、昨年より1件多い候補の数となりました。実のところを言えば、推薦者は個人を推しての推薦であり、そして入選でありましたが、ご本人への受賞の確認において、個人での受賞は固く辞され、団体での受賞をご希望になられました。そのご意向を踏まえまして、事務局、代表、表彰委員長による選考会後の検討を引き続いて行い、その結果をもちまして、今回の表彰のことをお伝えしたいと存じます。

 今年もまた、受賞の個人、団体は、図書館員および図書館の外から図書館をサポートされ、図書館活動を推進するお仕事をされていて、いずれも高い業績と評価をすでにお持ちの方々でありました。

 選考は3月14日、大森の日外アソシエーツにおいて8名の出席幹事による投票および6名の不在幹事の通信投票によることとなりました。いささか不在幹事の多いことが残念でしたが、出席・不在のあわせて14名の幹事による投票が行われました。昨年にも増して投票の結果は拮抗しました。厳正かつ公正な選考経過の結果として、同数票を得た候補もあり、例年よりも1件多い4件で落着したのでありました。すなわち、この度の第19回図書館サポートフォーラム賞は、銀鱗文庫様、公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター様、雪嶋宏一様、渡辺美好様の二団体と個人お二人様が受賞されることになりました。

 では、五十音の順に第19回図書館サポートフォーラム賞の表彰理由について述べさせていただきます。


 まず最初に団体表彰として銀鱗文庫様の表彰理由を読み上げます。


 ○銀鱗文庫

 銀鱗文庫は東京都中央卸売市場「築地市場」の水産仲卸の文化団体「NPO法人築地魚市場銀鱗会」の前身、一九五一年に誕生した「築地魚市場銀鱗会」が創立10周年の記念事業として開館、5年前から一般への閲覧も始めた。当初は、市場の人の余暇や教養を高めるための図書が中心だったが、二〇一〇年より、市場ならではの専門的な図書館に方向転換。水産の統計や年鑑ほかの専門書、日本橋魚河岸や築地市場開場時などの印刷物など、「築地市場の存在証明」に類する資料収集にも精力を傾けており、平成28年度は、一九五〇年代に始まる業界新聞のデジタル化を進めて、築地文化を未来へつなぐ活動を行っている。こうした資料を目的に、水産関係者のみならず、大学生ほか多くの研究者が訪れており、この貴重な文庫を生き残らせることもまた日本の、東京の文化指標を示すものであると言えるだろう。このユニークな公開専門図書館である「銀鱗文庫」の事業は、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 この2月、私がリスボンへ出張した帰り、パリのシャルル・ドゴール空港で乗り換えて、エア・フランス便で羽田に帰りました。12時間近いフライトはやはり応えるのですが、邦画の「シン・ゴジラ」や「君の名は」もありましたが、いずれも出張の機内ですでに観たものであり、眼先をかえてドキュメンタリーを選びましたところ、「TSUKIJI WONDERLAND」という松竹制作のビデオがありました。築地か豊洲かで注目されておりましたし、図書館サポートフォーラムの見学会もあり、そしてこの賞の候補にも銀鱗文庫が挙がっていたので、これ幸いと観ておりましたら、銀鱗文庫の看板がまさに映し出されました。

 ハーバード大学の社会文化人類学者のベスター教授が銀鱗会事務局長の福地享子様とご一緒に文庫の中で調べ物をしたり、お話しする様子が流れました。ベスター教授は、Tsukiji: The Fish Market at the Center of the World (California Studies in Food and Culture, 11)をカリフォルニア大学出版会から二〇〇三年に出されており、翻訳書も木楽舎から二〇〇七年に出ています。福地様ご自身も、銀鱗会と共著で『築地市場 クロニクル1603-2016』(朝日新聞出版)を昨年出版なされていますが、このように研究者からも絶大な信頼を得ている銀鱗文庫が築地に留まるにしろ、豊洲に移るにしても、着実に継承されることを願いたいと存じます。


 次いで、同じく団体表彰の公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターの表彰理由を読み上げます。


 ○公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター

 公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターは、昨年の二〇一六年一一月一一日、『渋沢栄一伝記資料』全68巻のデジタル化プロジェクトにおいて、本編58巻のうち索引巻である第58巻を除く57巻、約4万ページをインターネットへ公開した。本伝記資料が日本近代史、経済史研究に資することは言うまでもないが、本資料の公開に当たって仕込まれた、データ構成、検索システム、ユーザー・インストラクションなどの多面的で周到かつ、合理・合目的な設計は、数多あるデジタルアーカイブの中でも秀逸さにおいて際立っている。以後の史資料の公開に際して、モデルとなる事例を構築された貴センターの本事業は、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 表彰理由の通り、今回の表彰は単に大部多巻もののデジタル化とその公開にあるのではなく、検索のインターフェース等に周到な配慮がなされていることを高く評価してのことであります。渋沢栄一記念財団情報資源センターのサイトには、渋沢栄一資料に留まることなく、今から列挙いたします9つのジャンルがあります。すなわち渋沢栄一情報の発信(ここに伝記資料があります)、渋沢社史データベース、世界/日本のビジネス・アーカイブズ、ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)、実業史錦絵プロジェクト、協力事業、情報資源センターだより、情報資源センター・ブログ、実業史研究情報センターの誕生、というように。よくまぁ、これだけのコンテンツを揃え、かつダイナミックなスピードで更新されるものだといつも感心しております。

 それだけでも大変なのに、センター長の茂原暢さんは、「きまぐれニュース」という専門図書館のメーリングリストを設置し、週末を除くほぼ毎日、MLA界のさまざまなニュースをタイトルとURLと茂原さんのコメント付きでメール配信して下さって、私の職場の朝はこのメールをチェックすることから始まることが多いのです。あんまり頑張り過ぎて倒れないよう、健康管理にはお気をつけて下さい。ついでに言うと茂原さんは、くにたちバロックアンサンブルの首席常任指揮者でもあり、そちらで発散されているのかもしれません。


 次いで、個人表彰の雪嶋宏一様の表彰理由を読み上げます。


 ○雪嶋宏一〔早稲田大学教育・総合科学学術院教授〕

 雪嶋宏一氏は一九七八年に早稲田大学に司書職として入職後、深井人詩氏の薫陶のもと、一九九五年の『本邦所在インキュナブラ目録』(IJL)を皮切りに、西洋書誌学、とりわけ揺籃期本について全国調査に基づいて研究を推し進め、日本における西洋書誌学のレベルを大きく向上させた。教職に転じた後は、16世紀印刷本にフィールドを広げ、ヴェネツィア印刷界の巨人アルド・マヌーツィオ、『万有書誌』のコンラート・ゲスナーなど書物史に登場する巨匠的人物の研究においても多彩な業績を築かれている。揺籃期本については、二〇〇四年にIJLを改訂増補するIncunabula in Japanese libraries(IJL2)を刊行している。これらの一連の研究は、日本の学術図書館における西洋貴重書の保存と継承に多大の功績をもたらすものであり、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 雪嶋宏一先生は早稲田大学の第一文学部でもともと古代遊牧民スキタイの歴史と考古学を学ばれ、『スキタイ騎馬遊牧国家の歴史と考古』という本も二〇〇八年に雄山閣から出されています。早稲田大学の図書館でのお仕事のスタート時は、深井人詩さん(第三回LSF賞受賞)が直属の上司であったということで、かつて日外アソシエーツが出版元であった日本索引家協会の『書誌索引展望』に連載の藤野幸雄先生(故人・第一一回LSF賞受賞)の「書誌索引家列伝」にインスパイアされて、アンリ・コルディエなどについて、同じ連載に寄稿されました。その手法をもってインキュナブラの書誌の歴史をまとめられたと以前に書かれております。このような機縁・奇縁があったのもまた、図書館サポートフォーラム賞に相応しいお方と存じます。

 ついでながら言いますけれども、日外アソシエーツが発行元になっていた日本索引家協会の『書誌索引展望』は、一九九七年に終刊いたしましたが、やはり惜しい雑誌を失ったという感慨があります。その一部は昨年のサポートフォーラム賞の金沢文圃閣が引き継いでいるようでもありますが、書誌と索引の理論誌としての『書誌索引展望』は、私にとりましても大切な一誌でしたので、やはり残念です。

 私は、個人的には、近年の「萬有(世界)書誌」のコンラート・ゲスナー、ヴェネツィア印刷人のアルド・マヌーツィオについてのご研究の成果に多くを学ばせて頂いております。特にアルドの没後五百年の記念展覧会をヴェネツィアのアッカデミア美術館で見る機会を得たのも、雪嶋先生の研究を追っていたからでございます。最近では、『日仏図書館情報研究』にアルドについての講演録が掲載されていますので、ご興味の向きは是非ご覧いただくのが良いかと思います。


 次いで、同じく個人表彰の渡辺美好様の表彰理由を読み上げます。


 ○渡辺美好〔元国士舘大学図書館職員・元同大学非常勤講師〕

 図書館サポートフォーラム賞の受賞者の中には、これまで図書館員でありつつ書誌作成に本務以外の個人の時間を傾注して止まないbibliographer、書誌の人は少なくない。18回の手代木俊一氏はキリスト教礼拝音楽の、16回の太田泰弘氏は食文化の主題書誌において、14回の金沢幾子氏は福田徳三の、11回の大森一彦氏は寺田寅彦の個人書誌においての功績を評価してのものであったが、今回の渡辺美好氏も吉田松陰書誌に代表される個人書誌において大きな成果を挙げられた。特に個人書誌を「データによる伝記」と把え、対象人物像に迫り、その人間観、歴史観の理解を促す創意工夫のある書誌の作成は、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 渡辺さんは『深井人詩書誌選集』を「T 年譜・著作目録」二〇一四年、「U 二次書誌・三次書誌」、「V 書誌作成論」、「W 文献探索人・書評・師友・家郷」の三冊とも二〇一五年に、いずれも金沢文圃閣から出されておりまして、雪嶋先生同様に深井人詩人脈に連なる方と言えます。深井書誌のTも吉田松陰書誌同様に、渡辺流「データによる伝記」としての個人書誌と伺っていますが、ほかに杉森久英、中村洋子、草野正名(まさな)、深井迪子(みちこ)についてもこの「データによる伝記」を編まれているとのことです。その一例としての深井迪子書誌について、渡辺さんは、「深井迪子は戦後の新世代を代表する作家であった。年譜では創作の苦労や作家としての悩みや関心の変異などを、彼女の著作や日記・書簡などから詳述した。引用文には出典を明示。[未発表ながら]参考文献目録では批評文の要所をいちいち摘録して付記したので、作品に対する評価をこの目録で瞥見できる」とお書きです。書誌を編むことの労力はただでさえ大きい上に、このような「伝記的書誌」ははるかに想像を越えるものがあるでしょう。


 第19回を迎える図書館サポートフォーラム賞も、この賞の三つの柱にかなって、長年の研鑽と国際性、そして図書館のあることの意義の発露顕現をよく示すお二方と二機関に受賞いただきました。今回、例年になく4件の受賞者を得ましたこと、表彰委員長として、ことのほか嬉しく思っております。

 以上をもちまして、簡単ではございますが、今回の図書館サポートフォーラム賞の表彰者のご紹介とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。