手代木俊一 氏(立教大学立教学院史資料センター員/元・フェリス女学院大学附属図書館) 受賞のことば


手代木俊一氏 ただ今ご紹介いただいた手代木(テシロギ)です。図書館サポートフォーラムから表彰されたことを光栄に思います。現在わたくしは紹介されるときなどで、「讃美歌史家」と呼ばれていますが、1973年から1998年までずっと図書館員でおりましたし、フェリス女学院大学退職後も書誌作成、レファレンス等でわたくしなりに図書館活動をしていたつもりでした。そのことが評価されたことをうれしく思います。

 もう一つうれしく思ったのは、わたくしを推薦して下さった人(松下鈞氏)がいたということでした。わたくしが松下さんとお会いしたのは25歳のときで、もう40年以上になります。1998年の退職後からは年賀状と拙著をお送りするくらいで、ほとんどお会いしていないのによく覚えていて下さったと思います。ありがとうございました。

 ここからも個人的なことを話させていただきたいと思います。

 先ほど申し上げましたようにフェリス女学院大学退職までずっと図書館員でおり、それも音楽学部の図書館に勤務しておりました。松下さんとお会いした25歳のとき、当時は神戸女学院大学の音楽学部図書室におりました。このとき関西の音楽大学、東京を中心とする音楽大学、音楽学部を有する大学の図書館を見学する機会があたえられました。最後の最後に見学したのが、国立音楽大学の図書館でした。見学しておどろいたのは、館員がすべて若い人ばかりでした。そしてその中心の事務室長(当時は主任司書)の松下さんはどうみてもわたしより4,5歳年長としか見えませんでした。女性もお茶くみなどせず、館員は書誌作成等図書館活動の第一線を担っている感を受けました。それまで見学した図書館の年功序列の人事とはいささか異なっており、わたくしもこんな図書館員になりたいものだと思いました。

 1980年、32歳のとき横浜のフェリス女学院大学音楽学部図書室(当時短大音楽科研究図書室、後大学図書館別館)に勤務することになりました。わたくしは古いタイプの図書館員で図書館員は一つの専門分野を持つべきだという考えをもっておりました。フェリス女学院大学は、キリスト教系で音楽学部と文学部を有する大学で、キリスト教、文学、音楽の三つの領域を重ねると「讃美歌」ということになります。松下さんからも、「フェリスは讃美歌だな」と言われてまいりました。ということで讃美歌資料を収集することになりました。ところが集めはじめると横浜は震災と戦災で紙の資料はほとんど残っておりません。そこで情報を資料化するということをはじめました。所蔵情報等でどこになにあるかは判りますので、その資料をコピーさせていただきました。フェリス女学院大学へ行けば、コピーではあるが、讃美歌のことは時代、教派をこえて何でも調べられるということを目指しました。

 ところがある機関から、「ここで見ることができるのになぜコピーを渡さなければならないのか。それに誰が讃美歌の研究をしているのか」と、言われました。資料が集まり宝の山になってきていることが判っていたので、しかも紀要(当時は短大論叢)に執筆者を募っており、機会が与えられたので讃美歌に関する論文を書くことになりました。また讃美歌書誌も作成いたしました。

 これも松下さんの著作に中の言葉で、正確には覚えていませんが、「需要が供給を生むのではなく、供給が需要の原動力になる」。讃美歌資料を集め、讃美歌について論文等でこんなに讃美歌は面白い、日本のキリスト教だけでなく、日本の音楽、文学、日本文化そのものに大きな影響を与えていることを論文、研究会、セミナー等で発表し、またセミナーの実行委員になり、フェリス女学院の存在意義を示していく方向をめざしました。その後キリスト教とは関わりのない、音楽史研究者、文学研究者も訪れるようになりました。

 ここで問題になったのは、図書館員でありながら、論文を書き、様々に機会に発表し、セミナーの実行委員になるということでした。わたくしの中ではこれらは図書館活動の一環として思っていたのですが、日本の多くの大学図書館員は事務職で、他の事務職の方々から違和感をもって受け止められました。事務職なのに論文を書いていることが問題になり、図書館員でいることがむずかしくなりました。音楽学部図書室(図書館別館)が本館に吸収される際に、退職し研究者をめざすことになり、キリスト教系大学の研究調査員になりました。

 わたくしには著作が6点ありますが、うち3点は書誌で、その中の2点は退職後の作成です。また退職後も讃美歌に関するレファレンスはすべてお答えいたしましたし、これからも受け止めるつもりです。

 図書館から出たため資料がそばになく、レファレンスに即答できなくなりました。そのため讃美歌資料、周辺資料をそろえるようにしてきました。今ではかなりの量になり、日本有数のコレクションといえると思います。今後のこの資料をどうするかを検討中です。すべて一括して受け入れて下さる機関があれば幸いと考えております。

 個人的なことばかり話してまいりましたが、これを第18回図書館サポートフォーラム表彰式でのご挨拶とさせていただきたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。